君の世界からわたしが消えても。
「それで、話ってなんだい?」
廊下から移動し通された部屋は、何回か来たことのある、例の薄暗くてこぢんまりとした部屋。
聞けばここは、おじいちゃん先生専用に与えられた部屋なのだそうだ。
この前まではなかった電気ケトルでお湯を沸かし、インスタントコーヒーを手渡してくれた先生は、わたしがなにを言うのかわかっているのだろう。
椅子に座り、砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをすすって、一息つく。
甘くて苦いその味は、わたしの心をそのまま表したみたい。
カップとお揃いの白いソーサー、ゆらゆら揺れるキャラメル色をしたコーヒー。
水面は濁っていて、覗き込んでもわたしの顔は映らない。
「……あの、別に大したことはないんですけど。自分の中で決心がついたというか、それを誰かに聞いてほしくて」
そんなことで時間をとってもらってすみませんと謝れば、先生はにっこり笑って続きを促した。
それを見て安心して、手に持っていたコーヒーカップを机の上に置かせてもらって、かごバッグを開く。
中には、可愛い包みが2つ。
そのうちのひとつを取り出して、おじいちゃん先生へと差し出した。