君の世界からわたしが消えても。
わたしの思うことや出した答えは正解か、そういうことを聞きたかったし、確かめたかった。
自分の気持ちを切り捨ててたくさん考えた。
そうして選んだわたしの答えを、正しいよって言ってほしくて。
イチにも家族にも、わたしがこうやって悩んでいる姿は見られたくなくて、決めたことも、しようとしていることも、知られたくなかった。
きっと、心配されるから。
だからこうして、おじいちゃん先生のもとに足を運んだ。
認めてほしかったんだと思う。
受け入れてほしかったんだと思う。
大丈夫だよって、背中を押してほしかったんだと思う。
……だけど、わたしがほしい言葉を、先生は言ってはくれなかった。
わたしの気持ちを汲んだ上でなのか、それともかける言葉が見つからなかったのかは、わからない。
ただ、頭を撫でるその手が優しいことだけは、知っていた。
不安も渦巻いたけど、なんだかそれだけで満たされた気がした。
冷め切ったコーヒーを飲みほして、笑顔を作れば先生の困ったような顔が目に入る。
数年前に亡くなったおじいちゃんが、よくそんな顔をしていたなと思い、同時にこの先生はおじいちゃんによく似ているな、とも思った。
「わざわざ時間を割いてもらって、ありがとうございました。コーヒーも、おいしかったです」
挨拶をして、ドアに向かって歩く。
「なにもできなくて、すまないねぇ……」
部屋を出てドアが閉まる直前に、おじいちゃん先生の小さな呟きが聞こえた。
……涙は、流さなかった。