君の世界からわたしが消えても。

 わたしの思うことや出した答えは正解か、そういうことを聞きたかったし、確かめたかった。


 自分の気持ちを切り捨ててたくさん考えた。


 そうして選んだわたしの答えを、正しいよって言ってほしくて。


 イチにも家族にも、わたしがこうやって悩んでいる姿は見られたくなくて、決めたことも、しようとしていることも、知られたくなかった。


 きっと、心配されるから。


 だからこうして、おじいちゃん先生のもとに足を運んだ。


 認めてほしかったんだと思う。


 受け入れてほしかったんだと思う。


 大丈夫だよって、背中を押してほしかったんだと思う。


 ……だけど、わたしがほしい言葉を、先生は言ってはくれなかった。


 わたしの気持ちを汲んだ上でなのか、それともかける言葉が見つからなかったのかは、わからない。


 ただ、頭を撫でるその手が優しいことだけは、知っていた。


 不安も渦巻いたけど、なんだかそれだけで満たされた気がした。


 冷め切ったコーヒーを飲みほして、笑顔を作れば先生の困ったような顔が目に入る。


 数年前に亡くなったおじいちゃんが、よくそんな顔をしていたなと思い、同時にこの先生はおじいちゃんによく似ているな、とも思った。


「わざわざ時間を割いてもらって、ありがとうございました。コーヒーも、おいしかったです」


 挨拶をして、ドアに向かって歩く。


「なにもできなくて、すまないねぇ……」


 部屋を出てドアが閉まる直前に、おじいちゃん先生の小さな呟きが聞こえた。


 ……涙は、流さなかった。

< 154 / 298 >

この作品をシェア

pagetop