君の世界からわたしが消えても。

 カナの病室に行く前に、手鏡を取り出して覗き込む。


 目は赤くなっていないか、変なところはないか。


 そんなことを細かくチェックして、気合いを入れ直す。


 夢は見たけど、久しぶりに寝られたことで、くっきりと浮かんでいた目の下のクマも綺麗になくなった。


 そのことに、内心ほっと息を吐いた。


 カナのところに来る日だから、げっそりとした顔で行くわけにはいかない。


 カナが心配しちゃうから。


 鏡の中に映るわたしは、いつものわたし。


 だけど、心なしかその顔は緊張を孕んでいて、いつもよりも強張っていた。


 それでも、自分の中でもやもやとくすぶっていた感情は、いくらか消化できている。


 躊躇する気持ちも、もちろんある。


 戸惑いもするし、やっぱり怖い。


 だけど、ずっとこのままでいられるわけがない。


 いつか、カナが日常に戻る日がやってくる。


 いつか、記憶も元に戻るって信じてる。


 そうしたら、わたしがミヅキではないこと、カナが真実を知る日が来る。


 その“いつか”が、予想以上に早く来るかもしれないことも、わかっているから。

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