君の世界からわたしが消えても。

「……ねえ、クッキー作ってきたんだよ。出てきて、食べない?」


 そうしてわたしの口から出てきた言葉は、脈打つ心臓や震える腕に干渉されず、自分でも驚くほど滑らかに紡がれていた。


 “クッキー”という単語にカナの肩がピクリとはねたけど、出てきてくれる気配はない。


 予想通りだけど、少し寂しいなと思う。


 いつもならここでめげているところだ。


 でも、今日は違う。


 今日からは、今度こそ、ちゃんとカナのためになることをしたいから。


「ねえ、出てきて食べようよ?」


 もう一度、カナにそう話しかける。


 でも、当たり前のように無視されてしまう。


 これも、予想通り。


 ……でもね、カナ。


 ずっと近くにいたから、わたしは知ってるんだよ。


 カナがミヅキに弱いこと、逆らえないこと。


 どんなことが嫌で、どんなことが嬉しいのか。


 ミヅキに関わること全部、悲しくなるくらいに、怖くなるくらいに、知っているんだよ。


 だからね、なんて言えば出てきてくれるのか、本当はわかってるんだ。

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