君の世界からわたしが消えても。

 まるで子供のようなその後ろ姿に視線を注いで、よく聞こえるよう、あからさまに大きなため息を吐く。


 すると、強情なカナの小さく丸まった背中が僅かに揺れた。


 それを見て、やっぱりカナの中心にいるのはミヅキだけなんだなあ、って心の中で思ったし、再確認させられた。


 ……このクッキーは、カナの記憶を戻すきっかけを作るためのもの。


 だけど、わたしの甘くて苦い気持ちを、直接言わずに届ける手段でもあった。


 これを食べてもらって、わたしは自分の恋を本当に終わらせるんだ――。


 胸に抱え込んでいたバッグから、丁寧にラッピングを施したクッキーを取り出した。


 ふわりと漂った香ばしい匂い。


 細く開いた窓の隙間から通る風に乗って、それが病室中に広がっていくのがわかる。


 後ろから、イチが鼻をすんすんと鳴らす音が聞こえる。
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