君の世界からわたしが消えても。

「せっかく作ったのに、食べてくれないんだね……」


 がっかりしていることがわかるように、弱々しく呟いた。


 このセリフ、ミヅキと一緒によく言っていたんだ。


 お菓子を作って、だけど失敗しちゃって、それでも食べてほしくて言っていた言葉。


 それをカナが覚えているかはわからない。


 だけど、これで出てきてくれるんじゃないかと思った。


 ……だって、カナはミヅキに弱いから。


 ミヅキを悲しませるようなことは、絶対にしないから……。


「ねえ、出てきて食べよ?」


 再度そう言えば、もぞもぞと布団が動く。


 ひょっこりと顔を出したカナはやっぱりちょっと不機嫌そうで、だけどその目は『ずるい』と言っているようで。


 ミヅキにはこんな顔も見せていたんだなあ。


 今日まで知らなかったなあ。


 なんて、なぜか少しだけ笑ってしまいそうになった。


 大人っぽい、しっかりしてる。


 カナに対してそう思っていたけど、ミヅキにはそういう子供っぽい一面も見せていたんだね。
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