君の世界からわたしが消えても。
だけど、カナの意外な一面を知って穏やかにそれを見ることができる一方で、この表情を見ていいのは、本当はミヅキだけなんだっていう苦しさも、同時にわいてきた。
ミヅキの身代わりでいることの罪深さをひしひしと感じて、胸が押しつぶされたように痛くなる。
だって、カナが本当に心を許しているのは、目の前にいるわたしじゃない。
カナの傍にいていいのは、ミヅキの代用品なんかじゃないから。
近くにいるのに、本当に遠いね……。
そんなことを心の中で考えては、息が詰まる思いがした。
だけど、それを心の奥底に押し込めて、クッキーの入った袋をカナの目の前に突き出して、笑った。
「一緒に食べよ?」
袋を軽く揺らしながらそう誘えば、カナはゆっくりと起き上がってくれた。
その表情はさっきのムスッとしたものじゃなく眉を垂らして困ったような顔で、不安そうにも見える。
だけど、その顔はだんだんと朱色に染まっていった。
「こんなことで拗ねるとか、かっこわる……」
耳まで赤く染め上げてぽつりとそう溢したカナに、思わず笑い声を漏らしてしまった。
じろりと睨まれたけど、そんな顔で見られても全然怖くない。
むしろ可愛くて、わたしは小さく笑いながら、クッキーが入った包みをカナに手渡した。