君の世界からわたしが消えても。

「……食べていい?」


 上目遣いで言うカナの目は、心なしか潤んでいた。


 そんな彼に、微笑む。


 もちろん、食べていいに決まってるよ。


 カナの為に作ったんだから。


 クッキー好きだったでしょ?


 そう言おうとした。


 けれど、その言葉は喉に引っかかって出てこようとしなくて。


「……あのまま布団から出てきてくれなかったら、イチとふたりで食べようかと思ったよ」


 言おうとしたことを胸にくすぶらせたまま、ヤキモチやきなカナに、少しの意地悪を混ぜてそう言った。


 むっと顔を曇らせたカナに「食べていいんだよ」と笑いながら促せば、花が咲いたかのような笑顔で、彼は笑った。
< 185 / 298 >

この作品をシェア

pagetop