君の世界からわたしが消えても。

「そういえば、言葉もスムーズに話せるようになったんだね」


 喧嘩を断ち切るように、寂しい気持ちが抑えられなくなる前に、饒舌に口論を繰り広げるカナに向かってそう言う。


 いろんな感情の渦中にいたから気付かなかったんだけど、カナ、前と同じように話せてる。


 聞くと、わたしがここに来られなかった昨日と一昨日に、イチを相手に話す練習をしたみたい。


 頑張ったんだなって思う。


 すごいねと褒めれば、カナは照れ臭そうに笑ってた。


「しょうがないから、ほら。イチにもあげるよ」


 いつのまにかぴたりと止まった口論。


 わたしに褒められて気を良くしたのか、カナはイチに、仕方がなさそうにクッキーの包みを差し出した。


 だけど、ムッと口をとがらせていて、本当は嫌なんだろうなってことがすぐにわかる。


 イチは目を輝かせたけど。


 そんな正反対のふたりの顔に、気付かれないように口元を緩ませた。


 仲いいな、って。


 嬉しいな、って。


 みんなで笑い合っていた、炭酸水の泡のように甘くはじけるそんな思い出は、儚く消えてしまったけれど。


 こうして新しく、また作り出していけたらいいな。


「美月も、食べたら?」


 カナに差し出され、ひとつつまんだクッキーの味は、わたしの恋をそのまま表しているようで。


 甘く締め付けられる胸に、カナを好きなわたしの最後の思い出として、今の光景をしっかりと心に刻み込んだ。


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