君の世界からわたしが消えても。

 カナの退院が決まった。


 その知らせが届いたのは、夏休みが明けてから僅か2日後のことで、本当に突然だった。


 学校が終わり家までの道をたどっていた時、電話でカナにそう言われた。


 表情なんか見えないけど、その声色からは退院できることを心底喜んでいる姿が容易に想像できた。


 聞いた瞬間、わたしは言葉が出なかった。


 いくらなんでも、早すぎなんじゃないの……?


 そう思った。


 嬉しそうなカナの声が遠くに聞こえて、バクバクする心臓を必死に落ち着けようとして、まともに息ができなくなって。


 とにかく、不安で押しつぶされそうになった。


 だって、記憶は戻っていないのに。


 この場所には、カナのこと、ミヅキのことをよく知る人たちがいる。


 あの事故を知っている、今の現状を全く知らない人たちが、この町にはたくさんいるのに。


 カナの知らない事実で溢れたこの世界に、今の状態のままカナが放り出されてしまうことが怖くて。


 予想できていたことのはずなのに、心はそれについていかなかった。
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