君の世界からわたしが消えても。

 確かにわたしは自分の足で立ってこうして生きているけど、わたしをわたしとして認識されていないんだから、存在していないのと同じことだ。


 なんだかそれが、急に怖くなってしまう。


 自分が自分じゃなくなっていくような、見えない恐怖にじわじわと浸食されているみたい。


 カナの心配をしなくちゃいけない時なのに、それと同じくらいに自分のことで頭がいっぱいだ。


 ……そんなこと、考えたって仕方ないのに。


「おい、大丈夫か」


「えっ」


 突然肩に手を置かれて、我に返る。


 後ろには珍しく不安そうな顔をしたイチが立っていて、カナも目に心配の色を滲ませていた。


 そんなにぼーっとしてたかな。


 だめだなあ、わたし。


「全然大丈夫だよ! ごめんね、ちょっと意識飛んでただけ」


 おどけて言ってみれば、「意識飛ぶって、やばいんじゃないの?」なんて、カナに見事に突っ込まれたけど、笑ってごまかした。


 納得していないみたいだったけど、わたしにはこれしか言えなかった。
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