君の世界からわたしが消えても。

「ほら、準備できたなら行こうよ!」


 少し重たくなった空気は、退院っていうおめでたい日に似合わない。


 だから、半ば無理矢理明るい声を出して、わたしはカナに話しかける。


 いつも通りの声で、いつも通りの笑顔で。


 すると、カナは安心したのか肩の力を抜いて、「美月はせっかちだなー」とわたしの頭を撫でまわす。


 その手の温もりと、声に孕む優しさが今はただ苦しく感じて、つらくなる。


 カナが“ミヅキ”と呼ぶたびに、心臓が痛くなった。


 慣れたつもりでいたけど、やっぱり悲しいね。


 思い出してよ、わたしのこと。


 前みたいに呼んでよ、わたしの名前。


 なんで忘れちゃったの、カナ……。
< 195 / 298 >

この作品をシェア

pagetop