君の世界からわたしが消えても。
「ほら、準備できたなら行こうよ!」
少し重たくなった空気は、退院っていうおめでたい日に似合わない。
だから、半ば無理矢理明るい声を出して、わたしはカナに話しかける。
いつも通りの声で、いつも通りの笑顔で。
すると、カナは安心したのか肩の力を抜いて、「美月はせっかちだなー」とわたしの頭を撫でまわす。
その手の温もりと、声に孕む優しさが今はただ苦しく感じて、つらくなる。
カナが“ミヅキ”と呼ぶたびに、心臓が痛くなった。
慣れたつもりでいたけど、やっぱり悲しいね。
思い出してよ、わたしのこと。
前みたいに呼んでよ、わたしの名前。
なんで忘れちゃったの、カナ……。