君の世界からわたしが消えても。
「……奏汰。本当にタクシーとか使わなくて平気なの?」
静かな空間に響いたわたしの声は、思ったよりも震えていた。
隣を歩くカナには目を向けないで自分の爪先を見ながら問いかけたけど、カナもイチも、わたしを見てるってわかる。
実はね、カナが家まで歩いて帰りたいって、そう言ったんだ。
「大丈夫だけど、どうかした?」
カナの声は、いつも通り。
そして、自分の足で歩けることが嬉しいみたいに、カナの靴底が地面を蹴る音だけが軽やかに聞こえてしまう。
「どうもしないよ。けど、退院したばっかりだし、やっぱりタクシーとかで帰った方がいいんじゃないのかな、って」
これは、半分本当で、半分は嘘だ。
わたしがカナにそう言ったのは、彼の体調が心配だったのももちろんある。
けれど、一番の理由は、違う。
歩いて帰れば、その分誰かに遭遇する確率が高くなるから。
それを危惧してのことだった。