君の世界からわたしが消えても。

 そんなわたしの心の声を知らないカナに目を向けると、彼は柔らかい表情を浮かべて、口元に弧を描かせていた。


 見ていられなくなってまた視線を下に落とすと、聞こえてきたのは穏やかなカナの声。


「もう怪我は治ってるし、大丈夫だよ」


 わたしの頭を撫でながら、静かな声で言ったカナ。


 それはきっと、わたしを安心させるための言葉だ。


 だけど、彼が笑ってくれても、どんな言葉を貰っても、不安は全然消えてくれなくて、むしろそれは増すばかり。


 それでも、イチよりは小さいけれど温かい大きな手で触れられるたびに、遠い昔に過ぎ去った時間が戻ってきたみたいに感じて心が緩んでしまうから、複雑だ。


 細くなった身体も、伸びた髪も、前のカナとは違うけど。


 優しいところ、話し方、温かくて大きな手。


 それは変わらない。


 頭に感じていた温もりが離れていって、その手の行方を追うようにしてカナを見ると、彼はただ前を、ずっと遠くを見ているみたいだった。


 真剣な顔で、一点を見つめるその目の焦点は揺らがない。


 それがすごく、綺麗だなって思った。
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