君の世界からわたしが消えても。

 曇りがちな感情を隠して、もうそろそろ遅くなるから帰ろうと、両隣の彼らに促そうとしたその時だった。


 イチが、口を開いたのは。


「奏汰。なにか思い出せたか」


「え……?」


 今までずっと黙り込んでいたイチが、核心に触れるようなことを言った。


 そのことに動揺して喉から自然と出た声は、同じような色をまとったカナの声にピタリと重なって聞こえた。


 いつでもイチは、わたしが進もうとしている道の数歩先を歩いてる。


 進もうと努力している。


 逞しくて、厳しくて、優しい人だ。


 こうして大事なことを、先延ばしにしたりはしない。


 ……わたしと違って。


 イチの顔を見つめる。


 だけど、視線は合わない。


 その顔は怖いくらいに真剣で、揺らがない瞳だった。


 視線は痛いほど真っ直ぐに、カナの方へと向いていた。

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