君の世界からわたしが消えても。
わたしもイチと同じように、カナを見つめる。
ふたつの視線を正面から受けたカナは、眉を寄せて顔を歪めた。
視界が少し曇ってその姿が歪んで見えたけど、気のせいだって思い込む。
カナは俯いて、儚い笑顔を浮かべた。
「……思い出せない、なにも。懐かしいような気もするけど、それだけ」
カナは痛々しい顔で、ただそれだけ言った。
……なにも言わなくても、わかるのに。
その顔を見れば、きっと記憶は取り戻せていないんだってこと、嫌でもわかるのに。
あえて言葉にして問われたそれは、カナにとってひどく残酷なことだった。
「そうか」
静かに重く響く声で、イチは一言そう言っただけだった。
わたしはなにも、言えなかった。