君の世界からわたしが消えても。

 今は葉だけになった桜の木に囲まれながら膝を抱えて、暮れゆく町を見下ろした。


 太陽は着実に沈んでいく。


 時は確かに進んでいる。


 だけど、わたしたちが今過ごしている時間は、動いているようで、たぶん止まっているんだと思う。


 過去の思い出にすがって、失くしたものを必死で取り戻そうと足掻いて。


 これって、正しい行動なのかなって、何度も悩む。


 でも、悩みながら進んで行くしかないんだ。


「……イチ。カナとふたりにしてもらってもいい?」


 わたしも、ちゃんと前に進まないといけない。


 傷ついて、傷つけたままでいちゃいけない。


 進もうとするイチやカナのように、わたしも歩き出さないといけない。


 踏み出した足がちゃんと地面を蹴って、前へと進むために。

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