君の世界からわたしが消えても。

 名前を呼んだまではいいけれど、その後の言葉がなかなか出て来なくて、しばらくカナと見つめ合う。


「どうした? 美月」


 カナは困ったように笑い、なにも言わないわたしの頭をそっと撫で、距離を詰めてきた。


 カナと、ふたりきり。


 少しでも動けば肩が触れる、そんな位置にカナはいる。


 あまりの近さにドキドキして目を見られなくなって、顔をそらした。


 ミヅキに対する罪悪感を、カナについた嘘を、この時だけは忘れていたかった。


「カナ……」


 震える唇、心。


 全部全部、強く抑え込んで。


 息をするのと同じように、前までは当たり前だった呼び名を一度だけ口にした。
< 218 / 298 >

この作品をシェア

pagetop