君の世界からわたしが消えても。
 
 勇気を振り絞って言ったのに、カナは一言も発さず、ただわたしの肩を抱き寄せただけだった。


 胸元で、最後の日の光を浴びた三日月がきらりと光り、そして、なんとなく思った。


 ……もしかしたら、カナは。


 本当はなにも思い出したくないんじゃないのかな、って。


 失った記憶を取り戻そうって、本気で思っていないんじゃないのかな、って。


 なんとなく、そう思ったんだ。


「奏汰は、過去の記憶を取り戻したいって思ってる?」


 大きく息を吸い込んでから言った一言は、思ったよりも辺りに響いて聞こえた。


 わたしの肩に回っていたカナの腕が、ピクリと動いたのがわかった。


「……なんで、そんなこと聞くんだ?」


 狼狽えたようなカナの声は小さくて、そして、揺れていた。


 そんなカナに、「なんとなく聞いてみただけだよ」と言えば、するりと腕がほどけていって、深いため息が隣から聞こえた。

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