君の世界からわたしが消えても。
「本当は……」
くぐもったカナの声。
なにかを伝えようとしてくれているカナの言葉を聞き漏らさないように耳を傾けて、次の言葉を待った。
「本当は、少し怖いと思ってるよ」
空はすっかり暗くなって、月の姿がよりいっそう明らかになる。
そんな中聞こえたカナの声は、月の淡い光に似ていて、今にも消えてしまいそうだった。
そして、続けざまにカナは言った。
失くした記憶を取り戻すのは怖い、って。
思い出したいけど、思い出しちゃいけない気がする、って。
記憶を失くしたのは事故による身体的なショックだけじゃなくて、精神的なショックも関わっているだろうって聞いたから、なおさら怖い、って。
わたしはカナの言葉を、初めてはっきりと聞いたカナの気持ちを、ただ静かに聞いていた。