君の世界からわたしが消えても。

 小さく見えるカナの姿。


 さっきカナがしてくれたのと同じように、わたしも彼の頭に手を伸ばす。


 そして、男の子にしては柔らかく、サラサラな髪に優しく触れた。


「……なに、してんの」


「さっきカナがこうしてくれたから、お返し」


 わたしがそう言えば、「なんだそれ」とカナは俯きながら言った。


 髪で隠れて顔は見えなくて。


 だけど、ぐすりと鼻をすする音に、泣いているんだと気が付いた。


 声も、涙声だった。


 ……わたしは今日まで、カナが失った記憶を取り戻すにはどうしたらいいか、必死に考えてきた。


 それはたぶん、イチも同じだと思う。


 けれど、カナが苦しいなら、カナが怖いと思うなら。


 『このままでいる』っていう選択肢をつくるのも、必要なのかもしれない。

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