君の世界からわたしが消えても。

 思い出そうとすることがつらいなら、やめてもいいんじゃない?


 自分を楽にしてあげて、いいんじゃない?


 そう言おうとして口を開いたけど、言えなかった。


 カナの頭を撫でていたわたしの手を彼がとって、指を絡めてきたから。


 びっくりして、なにも言えなくなった。


 強く強く、手を握られて。


 少し冷えたわたしの手が、だんだん熱を取り戻していく。


 初めて繋いだカナの手は、大きくて温かかった。


 それを今日初めて知って、切なくなった。


「美月」


 名前を呼ばれた。


 それは偽物の、わたしの名前。


 返事の代わりに、声の方に顔を向ける。


 わたしの好きな、真っ直ぐ透き通るような目。


 真剣な顔をしたカナが、わたしだけを見つめてた。

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