君の世界からわたしが消えても。
「俺、思い出すのはやっぱり怖い。でも、やっぱり思い出さないといけないんだと思う」
「そっか……」
「うん。俺もきついけど、忘れられた母さんとか父さん、それからイチだって、同じくらいきついと思うから」
だから、俺の記憶にいた人のことを思い出さないといけない。
カナはそう言って、ひときわ強くわたしの手を握った。
その痛いくらいに絡められた指から、カナの気持ちが伝わってくる。
……カナが、がんばるなら。
わたしも、がんばらないといけない。
つらくても、悲しくても、がんばらないといけないんだ。
カナが覚悟を決めた今だからこそ、わたしはひとつ、カナに聞いてみたいことが浮かんだ。
それはわたしのエゴでもあったけど、どうしても、聞いてみたかったこと。
カナの記憶が戻るきっかけになるかもしれない。
でも、それはカナにとって、とても残酷なこと。
……思い出して。
だめ、思い出さないで。
葛藤しながら、でも、自分の欲に勝てなくて、呟いた。