君の世界からわたしが消えても。

「ごめんね、イチ。本当に……」


 さっきまで俯いていた葉月が顔を上げ、俺を見ながらそう呟く。


 月明かりで、葉月の顔がぼんやりと浮かび上がった。


 そして、今日初めてまともに視線を合わせて、驚いた。


 葉月の顔が、ひどく憔悴しきっているように見えたから。


 泣いていた俺よりもきっと、涙が似合う顔をしている。


 だけど、葉月は泣いていない。


 泣きそうに顔を歪めているけど、涙は零れていない。


 そういえば、こいつは泣かなくなった。


 あの頃はよく泣いていたのに、最近は我慢しているみたいに顔を強張らせて。


 それは、一体いつからだったんだろう。


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