君の世界からわたしが消えても。
「イチ、怒ってる……?」
なにも言葉を返さないでいると、葉月は不安げに小首を傾げてそう聞いてきた。
胸元にぶら下がる、あの時からずっと首に下げている三日月型のペンダントが、微かに揺れていた。
「怒ってない」
いつもの口調で言うと、葉月はホッと息をついて、目で見てわかるほどの安堵の表情を浮かべた。
……また、静かな時間がやってくる。
俺が迎えに来たってわかっているはずなのに、ここから動こうとしない葉月は、空に浮かぶ月を見ていた。
今日の月は、“美月の月”。
葉月はそれを見ながら、今なにを思っているんだろうか。
薄ぼんやりと照らされる葉月の顔は、何度見ても血色が悪い。
今まで、こんなひどいツラをしていたのは、奏汰が眠ったままかもしれないと知った時、それから美月の葬式の時だった。
きっと、昨日俺が帰った後になにかあったんだろう。
薄々とそれに気付いているのに、俺はまたなにも言い出せないでいた。