君の世界からわたしが消えても。
夜はゆっくり、だけど確実に更けていく。
そんな中、葉月はおもむろに口を開いた。
俺の前で“美月”でいる必要なんてないのに、それはどこか美月に似た語り口だった。
「……イチが泣いてるとこ、久しぶりに見た」
本心の掴めない顔をして、どこか安心したように、ごまかすように小さく口角を上げて笑った葉月。
そして、「苦しいはずなのに、全然泣かないから。心配してたの」と、続けて言った。
それを聞いて、俺は今まで葉月に心配をかけていたのだと知った。
いつも奏汰のことや、天国にいる美月のことを思っているんだろうと思ってた。
葉月の中に、俺はいないんじゃないかと思っていたから、正直その言葉は嬉しかった。
「イチはいつだってわたしの先を歩いてて、強いなって、ずっと思ってたの」
そう言った葉月は、泣きそうな顔で笑ってた。