君の世界からわたしが消えても。
……俺が、泣かなかったのは。
悲しくなかったからじゃない。
美月が日常から消えて、奏汰は眠ったままになって、つらかったし寂しかった。
だけど、そんな俺以上に泣いて、泣いて、泣き続けたお前を、知っていたから。
そんなお前を、一番近くで見てきたから。
小さい身体でたくさんの悲しみを背負った葉月を、支えてやりたいと思ったから。
俺まで泣いていたら、守ってやれないと思ったから。
だから俺は、泣くのはあの日で止めにしただけなんだ。
俺は、特別強くもない。
感情が顔に出なくても、涙を流さなくても、なにも思ってないなんてことはないんだ。
泣かない俺を、先を歩く俺を、葉月は“強い”と言ったけど、それはほんとは違う。
美月と奏汰がいない日常が始まった最初の頃、確かに俺は葉月の数歩先を歩いていたかもしれない。
でも、今は違う。
今の俺を“強い”と言うのは、間違いだ。
……俺はいつも、自分の決めた道を信じて先に行こうとする葉月の背中を、ただ追いかけていただけだった。
置いていかれないように必死になって、結局いつも追いつけやしなくて、誰にも頼らずなんでもひとりで決めて歩いていこうとする葉月の背中を、俺は追いかけていただけなんだ。