君の世界からわたしが消えても。

「葉月」


 好きな人の、名前を呼ぶ。


 身代わりなんかじゃない、本物の名前を。


 葉月は返事の代わりに、こっちに顔を向けて首を傾げた。


 振り向いたその顔は、やっぱりひどい顔色で、泣きそうだ。


 その顔を見ると、どうしても出かかった言葉が喉に引っかかってしまうけど、今度はちゃんと隣に並んで、一緒に考えて選択して、進んで行きたいから。


 ひとりでなんでも溜め込みがちなこいつの荷物を、持ってやるために。


 掠れた声で、喉に張り付いていた言葉を無理矢理引っ張り出した。


「……昨日、俺が帰った後、なにがあったんだ」


 言った直後、葉月は目を大きく見開き、顔を歪めて俯いた。


 話すのは、あまり得意じゃない。


 だけど、聞くことくらいなら、俺にもできるから。


 ……俺は、自分のエゴを捨てる。


 葉月も、ひとりで歩くなんて選択肢は、自分を犠牲にするなんて選択肢は、お願いだから捨ててくれ。


 話してくれ、頼むから。


 今までひとりぼっちで歩かせて、ごめん……。

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