君の世界からわたしが消えても。
――どれくらいの時間が経ったんだろう。
きっと、そんなに長くはなかった。
長い髪を垂らし、俯いていた葉月が顔を上げるまで、僅かな時間だったと思う。
俺がもう一度名前を呼ぶと、葉月は短いため息を吐き、ゆっくりと顔を上げた。
口を真一文字に引き結び、黒い瞳を揺らすその横顔が、美月を失ったばかりの頃に見たそれと重なって胸が締め付けられた。
「……葉月」
もう何度目かわからない、小さく呟いた彼女の名前。
その裏側に、『話してくれ』なんて願いを込めた。
けれど、当の本人はその意味に気付いているのかいないのか、首を横に振るだけだ。
……もどかしくなる。
ここまできて、なにも話そうとしない葉月にも。
今まで聞こうとしてこなかった、自分自身にも。
すごくイラついて、しょうがない。