君の世界からわたしが消えても。
俺は、葉月にそんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ。
葉月に対しても憤りを感じるけど、それ以上に自分にムカついている。
自分の気持ちを打ち明けるのも、頼るのも苦手だって知っていたのに、こんなになるまで手を差し伸べてやれなかった自分に苛立っている。
葉月のこういう顔を見るたびに、何度も情けなく感じて、腹が立つ。
……俺はもう、後悔なんてしたくない。
葉月のこんな顔だけは、もう見たくない。
……だから。
「葉月」
もう一度、名前を呼んだ。
いつもとは少し、違う声色で。
「昨日、なにがあった?」
いつもとは少し違う聞き方で。
ぶっきらぼうで強い言い方じゃなく、奏汰がいつも話すような、語尾が上がったそんな口調。
それを意識して、話しかけた。
葉月は、いつもの俺と少し違うことに気が付いたのか、口を開きかけては閉じ、その動作を繰り返した。
そして、たっぷり間をあけた後に俺を見て、たった一言、“ずるい”と、そう零して笑った。
葉月が言った、“ずるい”の意味。
その真意に気付かないふりをして。
薄く水の膜が張り、きらきらと光るその目を、俺はただじっと見つめていた。