君の世界からわたしが消えても。

 空に浮かぶ月を見ながら葉月が口を開くのを待っていると、「あのね」と、静寂にすら紛れて消えてしまいそうな、か細い声が聞こえた。


 そっと隣を見やると、葉月は伏し目がちにしていて、瞳には光を映していなかった。


「昨日、イチが帰った後にね、聞いたんだ。“わたし”を知ってるか、って」


 聞いた瞬間に心臓が跳ね、思わず息を飲んだ。


 その音が聞こえたらしい葉月は、口の端に自嘲するような笑みを浮かべるも、淡々と昨日の出来事を話し続ける。


「わたし、“ハヅキ”って子を知ってるか、カナに聞いちゃったんだよ。バカでしょ?」


 同意を求めるようなその問いかけに、なにも言えずに黙りこくった。


 俺の反応を予想していたのか、気にしていないのか、葉月は下を向いたままぼそぼそと話す。


「……“わたし”のこと、わからないってカナは言ってたよ。……当たり前だよね。だけど、その言葉を聞いて、心が粉々になった気がしたんだ」


 そう言って小さく笑いながら、葉月は胸元の三日月を握った。

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