君の世界からわたしが消えても。

 だけど、葉月はなにも言わなかった。


 ひとりで悩み、考えて、迷いながらも進んでいた。


 ひとりで全て抱え込んで、溜め込んで。


 誰かに話を聞いてほしいと思ったことが、何度もあったはずなのに。


 全部、ひとりで解決しようとして……。


「葉月」


 ぐっと拳を握り、震える声を絞り出した。


 俺が聞きたいのは、昨日のことだけじゃない。


 今までに葉月が抱えてきた全てのことを、話してほしいんだよ。


 でも、そんなことを言う資格が俺にはないことも、知っている。


 泣いてもいいんだとか、全部吐き出せよだとか、ほかにも言いたいことはたくさんある。


 だけど、そのどれも言葉にするには陳腐な気がして、言い出すのは難しい。


 それでも、


「これからどうしたいんだ?」


 これくらいなら聞いてもいいだろ、と思う。


 今までしてきた選択の後悔や反省なんて、後でいくらでもできるから。


 これまでひとりで歩かせた分を取り戻すために、今からどうしていきたいかを一緒に考えることくらい、許されるだろ?


 そう、思うんだ。

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