君の世界からわたしが消えても。
「……わたしね。傷つくだけの恋は、いつか消えてなくなるって思ってたの」
葉月は、肩にある俺の手を冷たくなった手で静かにほどいて座り直し、月を見上げながらそう言った。
その横顔は寂しそうで、だけど、優しさを含んだような表情だった。
俺はなにも言えないまま、葉月が話すのをただ聞いていた。
「でもね、消えなかった。苦しくても、悲しくても、カナを好きなままだった」
ばかでしょって、小さく笑った葉月。
その口から紡がれる言葉は俺にとっては重苦しくて、息が詰まった。
「なんで忘れちゃったの、なんで思い出してくれないのって、もう何度思ったかわからなくてさ。でも、カナが全部思い出したら、わたしはカナの隣にはいられなくなっちゃうから、それもすごく怖くて。新しい思い出を作るのも、ミヅキがもういないことの証明になるみたいで、それも嫌で」
「……そうか」
今まで溜め込んでいたものが堰を切ったかのように、葉月の口から溢れ出した。
それに対して素直に言葉を発せられるほど俺は大人じゃないから、気の利いた言葉のひとつも言えない。
そんな俺の態度を気にする余裕がない葉月は、自嘲するような笑みを口元に浮かべていた。