君の世界からわたしが消えても。

「ひとつだけ、聞いてもいいか」


 今度は葉月が答えやすいように言葉を選んで紡ぐ。


 すると、葉月は膝を抱えて俯いたまま小さく頷いた。


「お前、あいつの傍にいたいって言ったけど、それは“美月でい続ける”ってことなのか」


 奏汰の記憶が戻っていない今、これから記憶が戻る確証もない中、『身代わり』を続けられるのか。


 そういう意味を含ませて問えば、葉月は小さく息を飲み込んだ後、「そうするしか、できないから」と掠れた声で呟いた。


 その言い方からは葉月の葛藤とか奏汰を想う気持ちが伺えたが、やっぱり不安感を煽られた。


 奏汰のことを心配してそう言ってるんだろうけど、もっと自分のことを大事にしてもいいんじゃないかと思う。


 こいつはもしかしたら記憶を失くした奏汰より、つらい状況に立ってるかもしれないのに。


 奏汰のことを想ってるのはわかるけど、それで無理して葉月が壊れたらなにも意味なんてないんだ。


 ……本当は、美月として傍にいるのは、もうやめたいんじゃないのか。

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