君の世界からわたしが消えても。

 お前が本当にきつくて、もう無理だっていうんなら、本当のことを奏汰に言うっていう選択肢だってあるんだ。


 この先いつか、奏汰が事実を知って傷つく日が必ずやって来る。


 それが早いか遅いか、違いはそれだけだ。


 そう伝えようと口を開こうとすると「……イチ」と、か細い声で名前を呼ばれた。


 まるで俺がなにを言おうとしていたのか、わかっているみたいに。


 葉月はそれまで伏せていた顔を上げ、俺の目を見た。


「こうなったのは誰のせいじゃなくても、選んだのはわたしなんだよ。カナね、忘れちゃったこと思い出そうとしてすごくがんばってるんだよ。……きっと、忘れられた方もつらいからって。自分だって、つらいくせに」


 本当に優しすぎるよね、そう言って葉月は笑った。


「カナが本当のことを思い出せたとしても、思い出せなくても、たぶんカナが傷つくことに変わりはないけれど。それはわたしたちにとってもすごく悲しいことだけど。わたしね、カナが自然に少しずつ思い出して、少しずつわたしに違和感を覚えてくれたらいいな、なんて思ってるの」


 そうしたらきっと傷つく準備ができるから、って。

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