君の世界からわたしが消えても。

「……あのね、イチ。わたし、大学はここから遠く離れたところに進学する」


 間違っても奏汰と会うことがないような、そんな場所に行くと言う葉月。


 そして、葉月は今まで肌身離さず持っていたペンダントを慎重に外し、それを俺の手のひらにぎゅっと押し付けた。


 ……葉月らしい、口角を小さく上げた可愛い笑顔で。


 なにもかも決めて、覚悟をしたような表情で。


 こんな顔を一度だった見たことがなかった俺は、葉月のこの表情の意味と行動、これから口にするだろう言葉を想像して、怖くなった。


 ひやりとした嫌な汗が伝うのを背中に感じる。


「……イチ、お願いね」


 まるで消えてしまう直前のような儚い笑顔で、葉月は言った。


「もしカナがなにも思い出せなかったら、“わたし”は死んだことにして。……このペンダント、イチに託しておくから。タイミングを見て、必ずカナに渡してあげて。それと、これも一緒に」


 そう言って、履いていたスカートのポケットをごそごそと漁った葉月は、俺の手に古い機種の今時見ないガラケーを押し付けた。


 暗くてよく見えなかったが、月や星の小さなパーツで装飾してあるのが月の光によって見えた。


 それは紛れもなく、美月が生前使っていた携帯電話だった。


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