君の世界からわたしが消えても。

「お前、これ……」


「大丈夫。わたしのデータとかいろいろ、勝手だけど消させてもらったから」


 俺が言おうとしてたこととは別の答えを、葉月は話した。


 ……こいつは、自分がなにを言ってるのか、なにをしようとしているのか、本当にわかってるのか。


 声が震えて上手く声が出ていないけど、鋭い目で葉月を睨みつける。


 そんな俺を、葉月は笑いながら、悲しそうな目で見ていた。


「ミヅキには、本当に罪悪感しかなくなっちゃうけど、きっとわかってくれると思うんだ」


 俺が怒っていることをわかっているくせに。


 イチもわかってくれるよね、って、そんな目で葉月は俺を見る。


 俺がなにも言えないことも、言う権利すらないこともわかっているみたいな、そんな目で。


 大人びた目をした子供なままの葉月は、頭を下げた。


「だから、もしもそうなった時には、お願いします」


 後先を考えているようで考えていないその言葉に、内心苛立った。


 奏汰の記憶が戻る確率は半々なのに、もうこうなることが決まっているみたいに進んで行く話も。


 お前が卒業して奏汰の記憶も戻らなくて、それで美月の遺品を渡した後、奏汰の記憶が戻った場合のもしもの話をしていないことも。


 ……お前自身が奏汰に忘れられたままでいいと、思っている事実も。


 仕方のないことだとわかっていても、葉月を傷つけていく奏汰を怨んでしまう俺自身に対しても。


 苛立って、悲しくて、でも考えてもどうしようもないことだと知って、苦しくなった。
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