君の世界からわたしが消えても。
葉月から託された、美月の遺品。
それらを握り締めると、隣で立ち上がる気配がした。
座ったまま見上げると、葉月はやっぱり笑ってた。
「イチ、ありがとね」
突然の礼の言葉になにも言えずにいる俺を見た葉月は、俺の目の前にしゃがみ込んで口を開く。
「……ずっと、わたしを“ハヅキ”として傍にいさせてくれて、ありがとう」
葉月は、そう言って笑った。
……気付いてたんだな。
俺が一度だって、どんな場面にいても、お前を“美月”って呼ばなかったこと。
小首を傾げ、口の両端を上げて笑うその顔は、小さい時から変わらない葉月の本物の笑顔だった。
「それとね、もうひとつ勝手なお願いなんだけど」
滲んだ視界に気付かないふりをしながら、葉月の顔をじっと見る。
「わたし、明日からもミヅキとしてカナの傍にいるよ。けど、きっと耐え切れなくなると思う。……だから、その時はお願い。イチ、わたしのこと助けてね」
“さいごのお願いだから”と葉月は言った。
初めて、葉月の方から頼ってくれたこの日。
今日は俺にとっても覚悟の日なんだろう。
力強く頷けば、葉月は泣きそうな顔で笑って、また「ありがとう」と口にした。