君の世界からわたしが消えても。
「帰ろう、イチ」
立ち上がった葉月はそう言って、小さな手のひらを俺に差しのべた。
……明確な言葉で帰りを誘うのは、今までずっと、俺の方からだったのに。
いろんなことがどんどん変わっていく。
そのことに気付かされ、大きな息をひとつ吐き出して、その手をとった。
「帰るか」
当たり前のように呟いた、いつもの言葉。
それが当たり前じゃなくなる日は、近いのかもしれない。
立ち上がると同時に離された葉月の手や、前へと進んで行く葉月との距離。
それがだんだんと遠くなるのを感じる。
葉月の背中は、もう小ささを感じさせなかった。
「イチ、行こう?」
立ち止まったままの俺を葉月はおもむろに振り向き、そう促した。
こうして過ごせるのは、あと何回なんだろう。
そんなことを考えながら、少し距離の開いた葉月の元へとゆっくり歩み寄る。