君の世界からわたしが消えても。
ただ覚えているのは、宙に舞ったふたつの影と、場違いなほどに色とりどりな、散らばった買い物袋の中身。
道端に残っていた雪に染みついた、赤い色だけだった。
異次元にいたかのような、視覚の中に残る色。
でも、現実を認めざるを得なかった。
お医者さんの言葉を聞いて、泣き崩れたお母さんを見て。
そこでようやく、今を見た。
ミヅキがここに、いないこと。
カナが目を覚まさないかもしれないということ。
それを知って、わたしは疲れ果てて眠るまで泣き続けた……。
――あの日のことを思い出すと、つい最近のことのような、ずっと昔のことのような、不思議な感覚に包まれる。
合わせていた手を下ろし、閉じていた目を開ければ、目の前には現実がある。
胸元で揺れる三日月のペンダントは、あの日ミヅキが買って、カナに渡すことができなかったものだ。
それを、そっと持ち上げる。
小さな星がちりばめられた四角い黒い箱に入っていた、ミヅキからカナへのプレゼント。
ミヅキのバッグに入っていたこれを、勝手にわたしが持ち出すのはどうかと思ったけれど……。
ミヅキが最後に、わたしに言った言葉だから。
カナが目覚めるまで、わたしが大事に持ってようって決めたんだ。