君の世界からわたしが消えても。

 イチは前よりよく話すようになったけど、カナのことだけは口を割らなかった。


 わたしも嫌なお願いを半ば無理矢理押しつけた手前、強く聞けないしそれとなく聞くことにすら抵抗があった。


 でも、高校の卒業式の後、ミヅキの遺品をちゃんと渡してくれたのかということすら聞けていないのだ。


 ……わたしが消息を断った理由も、今カナがどうなっているのかも、この数年間の中で何回も話す機会はあったのに、イチはなにひとつ教えてはくれない。


 自分勝手に決めた報いだと言えばその通りだ。


 カナのことを好きでいる限り傍にいちゃいけないと、カナのために、自分のためにと離れる道を選んだけど。


 それでも心配なんだ、カナのこと。


 離れてみて変わることはいくらでもあったけど、これだけの時が経ってもまだカナを想ってるなんて、自分でも呆れちゃう。


 ……今日に限ってこんなことを考えてしまうのは、しとしと静かに降る、雪みたいな雨のせい。


 ちょうど今日から7年前、高校の卒業式翌日の3月2日、上京した日もこんな雨が降っていたから。


 曇った窓ガラスから見える外は朝なのに薄暗くて、ひっそりと夜逃げするように東京へ向かったあの日を思い出す。


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