君の世界からわたしが消えても。
それにもうずっと、ミヅキのお墓参りにも行けてないな。
そんなふうにひとり感傷に耽っていると、左手に持っていた資料をスッと抜かれ、それで頭を叩かれた。
急に意識がこっち側に戻ってくる。
「ちょっと、なに?」
イラつきながら犯人の顔を歯磨きしつつ睨みつければ、逆に睨み返されるからたまったもんじゃない。
けれど、こういうふうなやり取りには慣れているから、怯んだりなんかはしないんだけど。
イチの眼光に負けないくらいに睨みをきかせ続ければ、呆れたようにイチはため息を吐いた。
その仕草に『勝った』なんて心の中で思っていると、スーツをびしっと着こなして準備万端な姿のイチは、視線だけでわたしが時計を見るように促した。
「……!? 早く言ってよ!!」
時計を見て、びっくり。
もう家を出る3分前だった。
「だからさっきから言ってるだろ」って、イチのお小言が後ろから聞こえた気がしたけど、そんな言葉はバタバタと洗面所に向かうわたしの耳を素通りしていく。
……感傷的になる日もあるけれど、イチと過ごすこんな時間があるから救われているのも、また事実。
会議資料の確認は終わっていなくて、それだけは確実にヤバイけど。