君の世界からわたしが消えても。
「葉月。お前まだ、あいつのこと好きか」
わたしの考えを断ち切るようなイチの重くて響く声に、頭がくらりと揺れた気がした。
忘れようとして、離れて、それでも忘れられなかった想いが溢れてくる。
……イチの言う“あいつ”が誰かなんて、聞かなくてもわかる。
だけど、なんで今こんなことを言うのかわからなくて狼狽えた。
久しぶりにイチの口から出た、カナのこと。
こっちに来て、初めてイチの方からカナの話題が出た。
なんで、どうして、今なの?
イチ越しに、喫茶店の扉を見つめる。
もしかして、ここにいるの……?
「イチ、」
鋭い視線で、イチはわたしを見てる。
きっとイチは、わたしの質問には答えてくれない。