君の世界からわたしが消えても。

 イチを見つめると、困ったように頭を掻いてた。


 わたしが行きたいって、会いたいって思ってるのがわかるのかな。


 「行けよ」って、目で促してくれる。


 深呼吸をしてドアノブに手をかけると、その上からイチは手を握ってくれた。


 まるで『大丈夫』って言われてるみたい。


 怖い気持ちもあるけど、7年ぶりに会える。


 今自分が抱えるカナに対するこの気持ちを、大事にしたいと思った。







 イチと一緒にドアを押すと、カランとひとつ錆びついた金色の鐘が鳴った。


 耳に馴染んだ、懐かしい音。


 イチと一緒に店内に進み、久しぶりに会う顔馴染みの店員さんに席へ通され、行くとそこにはやっぱりカナがいた。


「……久しぶり」


 わたしを見て、落ち着いた声で、前より少し厚みの増した声で、変わらない笑顔で、カナは笑った。


 もう二度と会えないと思ってたカナが、ここにいる。


 その事実にわたしはやっぱりなにも言えなくて、立ち尽くしたままだった。


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