君の世界からわたしが消えても。
イチを見つめると、困ったように頭を掻いてた。
わたしが行きたいって、会いたいって思ってるのがわかるのかな。
「行けよ」って、目で促してくれる。
深呼吸をしてドアノブに手をかけると、その上からイチは手を握ってくれた。
まるで『大丈夫』って言われてるみたい。
怖い気持ちもあるけど、7年ぶりに会える。
今自分が抱えるカナに対するこの気持ちを、大事にしたいと思った。
☆
イチと一緒にドアを押すと、カランとひとつ錆びついた金色の鐘が鳴った。
耳に馴染んだ、懐かしい音。
イチと一緒に店内に進み、久しぶりに会う顔馴染みの店員さんに席へ通され、行くとそこにはやっぱりカナがいた。
「……久しぶり」
わたしを見て、落ち着いた声で、前より少し厚みの増した声で、変わらない笑顔で、カナは笑った。
もう二度と会えないと思ってたカナが、ここにいる。
その事実にわたしはやっぱりなにも言えなくて、立ち尽くしたままだった。