君の世界からわたしが消えても。

 言いたいことは、たくさんあった。


 聞きたいことも、たくさんあった。


 それなのに、目の前の光景になにも言えなくなる。


 ……テーブルの上には、カナが好きな、ブラックコーヒー。


 それと、わたしがイチに託したミヅキの三日月のペンダントと携帯電話が置いてあった。


 ちゃんと、カナに渡っていたんだね。


 ミヅキはちゃんと、カナの元にたどり着けたんだね……。


 それを見て、涙が出そうになった。


 それだけで、この7年間は無駄じゃなかったって思えた。


 でも、どうしてイチは急に、こうやってカナとわたしを会わせようとしたの……?


 今のカナは、なにを知っていて、なにを知らないの?


 だってわたしは、イチに言ったはずだよ。


 “わたし”は死んだことにして、って。


 それなのに、こうやって会えるって、どういうことなの……?


 突然この状況が怖くなって後ずされば、「落ち着いて、そこ座って。ちゃんと話そう」と、カナが言った。
< 289 / 298 >

この作品をシェア

pagetop