君の世界からわたしが消えても。

 ふいに、思い出した。


『綺麗な三日月が浮かんでいた夜、最初に生まれたあなたには“美月”。お母さんが一番好きな花が咲く夏に生まれた妹のあなたには、8月の旧暦から“葉月”と名付けたのよ。ちょうど“月”も入っていたしね』


 そういたずらっぽく微笑んだお母さんの言葉を。


 双子だから、双子らしい似通った名前をつけたかったんだと言っていた。


 銀色に光る、手のひらの中の綺麗な三日月。


 それを見て、これはやっぱりミヅキそのものだなって、改めて思った。


 写真を入れることができるこのペンダント。


 この中には、そんなものは入っていない。


 もっと、大事なものが入ってる。


 ミヅキ自身が、この小さな月の中にいるんだ。


 お葬式をしてミヅキの体が焼かれた日以来、このペンダントを開いてない。


 ふとした拍子に開いてしまわないよう、厳重に取り扱ってる。


 カナが目覚めるその時まで、壊さないように、失くさないように……。


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