君の世界からわたしが消えても。

 なにもわからないまま席につくと、その隣にイチも腰かけた。


 わたしのことをじっと見つめるカナは、7年前に会った時と全然違う姿をしているわたしを、観察しているみたい。


 その視線がなんだか怖くて、俯きながら短くなった髪の先を指でいじると、吹き出すような声が聞こえた。


「イチの言ってた通り、本当になにも変わってないな」


 くすくすと笑い声を漏らすカナは、最後に見た時よりも男の人になっていて、ドキッとした。


 それに、変わらないって言った。


 こんなに化粧しているのに、髪型も色もなにもかも変えたのに。


「葉月のまんまだ」


 ……カナは笑って、わたしの名前を呼んだ。


 ずっと呼ばれたかった、わたしの名前を。


 そして、わたしは“わたし”のままだって、言ってくれた。


 自然と一粒涙が零れて、膝の上で握り締めていた拳の上にぽたりと落ちた。


 そんなわたしを見て、目の前にいるカナはまた笑う。


 「ごめん」って言いながら、何度も何度も泣きそうな顔で、でも笑って「ありがとう」って。

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