君の世界からわたしが消えても。
祝福の声が降りかかる中周りを見渡せば、会社の同僚や、一度連絡を絶った両親もいて。
あの時お世話になったおじいちゃん先生もいる。
貰っていた番号は捨てられなくて、それに、こんなふうに結婚式のお知らせをできるだなんてあの時は思ってなかった。
先生を見つめながら、来てくれてありがとうございます、って心の中で呟いた。
みんなが笑ってる、温かい空気に包まれたこの場所。
イチもいつもの表情を崩して嬉しそうにわたしを見てぶっきらぼうに「おめでとう」って言ってくれた。
赤い目元のイチを見て、泣いて笑ったわたしの胸元には、もちろん三日月型のペンダント。
今日は空が高くて澄み切った空。
とっても暑いし眩しくて上を見上げるのは大変。
だけど、今日はよく見えるね。
“ミヅキの月”。
「葉月」
名前を呼ばれて奏汰の方を向けば、薄いふわふわのヴェールが上げられて。
ほんの一瞬、奏汰と初めて触れ合った。
ひらひら、ふわり、ミヅキが大好きだった夏の花、ひまわりが揺れて。
空に浮かぶ三日月は、笑ったミヅキとそっくりの目をしているように見えた。
「好きだよ」
耳元で聞こえた大好きな人の声に振り返ると、彼はやっぱり嬉しそうに笑っていて。
わたしも同じように、奏汰に言葉を投げかけた。
「わたしも、好き」
ここまで来るのは、長い道のりだったね。
たくさん選んで、たくさん失敗して、たくさん後悔もしたね。
でも、そういう過去があったから、今こうして笑えてるんだよね。
これからは今までよりもっとたくさん、自分で進む道を選ばなければならないし、その分たくさん後悔もするだろう。
たくさん失敗してもいい。
たくさん後悔してもいい。
いつかその“後悔”を、『あんなこともあったね』って笑えれば。
それでいいんだ。
『身代わりの月』は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、幸せな、たったひとりのわたし自身。
【END】