君の世界からわたしが消えても。
暮れゆく太陽に、胸元にぶら下がるペンダントをかざせば、きらりと光が反射する。
山と山の間に頭を覗かせる太陽。
見上げれば、少しだけ欠けた月が空に浮かび上がっていた。
「見えてるかなあ? 今日は、“ミヅキの月”じゃないね」
姿を消していく太陽とは逆に、ぼうっと存在を増していく月。
ロケット型になっている三日月を縁った銀色のペンダント。
今度はそれを月にかざし、その後ぎゅっと握り締めた。
「まだね、カナは目を開けないんだよ。なんでだろうね……?」
そんな独り言を呟いても聞いている人なんていなくて、それは空気に流されて消えていく。
「きっと、ミヅキがいないから。カナはもう、こっちに戻ってきたくないのかもしれないね……」
力ない笑いが、勝手に漏れた。
1年という月日が流れて、涙も出尽くしてしまったんだろう。
もうここで泣くことはない。
「ねえ、ミヅキ。ここから見てる? それとも、天国から見てる?」
胸元で揺れる月へ向けたそんな問いかけも、誰にも届くことはなく。
吹き上げた風、桜のカーテンに包まれて、消えた。