君の世界からわたしが消えても。

「葉月」


 しんみりとした空気を裂くような声がした。


 真っ直ぐ響く声。


 今まで鳴いていたセミが、ぴたりと鳴くのを止めた。


 辺りには、ほんの一瞬の静けさが広がった。


「なんだ、イチか。びっくりしちゃった」


 振り向くと、ゆったりとしたジーンズに、黒の半そでシャツをまとったイチがいた。


 なんでこうもイチは、気配を消して近づいてくるんだろう。


 だけど、こんなのにはもう慣れっこ。


 肩をすくめて驚いたふりをしたけど、驚いていないことなんてイチもわかってる。


 証拠に、そんなわたしを見て、イチは怠そうに頭を掻いたから。


「今日はこっちにいたんだな。探した……」


 そう言って近づいてくるイチの額には汗が浮かんでいる。


 それは夏の暑さのせいじゃなく、わたしを探し回った証拠なんだろう。


 少し呼吸も乱れてる。

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